1-15『紅の国、草風の村へ』


翌日、0800時。野営地付近。
航空軍仕様のCH-47J輸送ヘリコプターが、けたたましい音と共に野営地の上空へと飛来。巻き起こる強風に草が揺れ、砂埃が盛大に舞い上がっている。

鍛冶兄「…………」

鍛冶妹「…………」

野営地の脇では、鍛冶兄妹がその様子を口を開けながら眺めていた。

隊員C「来やがったか……!」

支援A「フゥーッ!飛んだのはこっち来て以来じゃねぇかぁ?」

輸送ヘリコプターは野営地から100m程先、開けた場所の上空でホバリングに移行し、ゆっくりと高度を下げ始めた。

鍛冶妹「なんなの……アレ……」

鍛冶兄「空を飛んでくるとは聞いてたが……」

鍛冶一家には昨日のうちに、増援が空を飛んでくる事は聞かされていた。しかし翼竜などを想像していた二人は、完全に意表を突かれ呆気にとられていた。



偵察「着いたか、ヘリだと早いな」

一方、ヘリコプターの貨物室では、隊員達が降機に備えて待機している。

隊員G「小隊、聞いてくれ。ヘリから降りたら、そのまま止まらずに野営地の手前まで移動。一度整列して点呼を取る。素早くな」

隊員Gが説明する間にも、輸送ヘリはゆっくりと高度を下げ、その巨体を地上へと下ろした。

二尉『機長より貨物室。降機を許可、繰り返す降機を許可』

隊員G「よし。行け、行け!」

隊員A「モタモタするな!ランプ付近で留まるんじゃないぞ!」

機内で待機していた隊員等が降機を開始。後部ランプから地上へと駆け出して行く。

隊員A「後ろが閊えるだろう!早く行け!」

支援B「チッ……そんな急ぐような場面でもねぇだろうに、鬼軍曹気取りがッ!」

口うるさく喚きたてる隊員Aに、支援Bはあからさまに不快な顔をする。

隊員B「カワイイ顔もあれで台無しだかんな、もったいない」

同僚「二人ともよせ、聞こえるぞ」

悪態を吐く支援B等を止めに入る同僚。

支援B「別に構やしませんよ!」

偵察「やめとけって面倒が増える。ほら降りるぞ」



各隊員の降機は着陸からものの数十秒で完了。輸送ヘリコプターがエンジンを停止すると、爆音と風が止み、周囲に静けさが戻って来た。

二尉「オーケー、エンジン停止確認。搭乗員、先に外部点検に行ってくれ」

搭乗員「了解」

副機長「あぁ、糞ッ……久しぶりに飛んだのにほとんど何もしてねぇぞ」

二尉「愚痴は後にしろ、それよりチェック始めるぞ」

副機長「言われんでも分かってる」

機上整備士が外部点検へと向かい、コクピットでは点検が始まる。

一曹「二尉、ちょいと失礼します」

そのコックピットへ、一曹が顔を出す。

一曹「点呼終了次第、我々は作業を開始しますが、そちらの作業に何名か回しますか?」

二尉「いや、こっちは俺等だけで何とかなると思う。一曹さんはそっちの仕事に専念してくれ」

一曹「分かりました。よし隊員G、点呼を頼む」

隊員G「了解」

隊員Gに点呼を任せると、一曹は輸送ヘリから降り立ち野営地へと向う。そして、野営地の近くから歩いてきた補給と対面、互いに敬礼を交わした。

補給「一等陸曹、月詠湖の野営地へようこそ」

一曹「色々と面倒を押し付けてすまなかったな、補給二曹」

補給「いえ、問題ありません。ヘリで来たのは……20名程ですか?」

一曹「ああ、それと物資をな。燃料と車両は隊員E達が陸路で持ってくる」

補給「そうですか。ところで無理な増援を頼んでおいてアレですが、分屯地の方は大丈夫なんですか?」

一曹「野砲科隊や11普連が残って防護にあたっている。指揮は砲科二曹に押し付けてきた。事態が事態だ、背に腹は変えられん。あれから状況に変わりは無いか?」

補給「良くも悪くも、特に新しい情報はありません。保護した子も、今以上の事は知らないそうで」

一曹「そうか……仕方あるまい。捜索隊の準備の方は?」

補給「捜索分隊はほとんど準備を完了してます。あとは運んできた装備を搭載すれば、出発できます」

一曹「分かった、少し待ってくれ。すぐに運び出して準備しよう」

話が終わると、一曹は整列を終えた隊員等の所へと向かう。

隊員G「二曹、各隊点呼完了。異常なしです」

一曹「分かった。よし各隊聞いてくれ、行動予定に変更はなしだ。第一分隊は野営地の移設準備の手伝いを、第二分隊は装備の積み下ろしに掛かってくれ。解散」

解散がかかると同時に、増援の各隊員はゾロゾロと持ち場へ移動を始める。

鍛冶妹「結構な人数がいるんだね……」

隊員C「まぁ軍事組織だからな」

隊員Cと鍛冶兄妹はそれを端から眺めていた。

鍛冶兄「……服装も人によって少し違うんだな」

鍛冶妹「そういやそうだね。ねぇ、何か違いがあるの? 」

隊員C「今度教えてやるよ。暇があったらな」

ダルそうな声で適当に答える隊員C。

鍛冶妹「教える気ないでしょ、あんた……」

一方、支援Aは移動する隊員達へ声をかけていた。

支援A「フゥーィ!久しぶりだなみんなぁ、元気してたか!?」

支援B「よぉ、支援A」

偵察「お前も変わらぬやかましさだな」

隊員C「あぁ、これで今日からさみしくねぇだろ?夜も安眠妨害の保障着きだ」

偵察「ご遠慮願いたいね」

一曹「おいお前等、あんまり無駄話はするなよ」

偵察「おっと、すんません一曹」

一曹「俺は別にいいが、早く動かないと隊員Aがうるさいぞ。ん?そこの兄ちゃんと姉ちゃんは?」

隊員C「ここん家の人間ですよ。先日は彼等と手を取り合って、感動に満ちた奇跡の生還を果たしましてねぇ!」

支援B「言い回しから、感動なんて微塵も伝わって来ねぇぞ……」

一曹「報告にあった協力者の方達か。色々とご迷惑をおかけしてます、部隊長を代行している一曹と申します」

鍛冶兄「あ、どうも……」

鍛冶妹「ご、ご丁寧に……」

両者はお互いに会釈を交わす。

一曹「お宅の前で居座ってしまって申し訳なかった。なるべく早いうちに移動しますんで、どうかご容赦下さい」

鍛冶兄「俺達は別にいいんだけど……」

鍛冶妹「っていうか、こっからどこかへ移るの?」

隊員C「荒地の向こう側に移るんだよ。あっち側のほうが、川も近いし切り出しにも便利だ。何より化け蜘蛛の監視もできる」

支援A「せっかくの原油をパーにされちゃ、たまんねぇからなぁ!」

一曹「そういう事なんでしばしの辛抱を」

鍛冶兄「まぁ、そんなに気にしなくともいいですが」

一曹「どうも。よし分隊、早いトコ作業にかかるぞ」

支援B「了解」



一方で、自衛は同僚と顔を合わせていた。

同僚「自衛」

自衛「よーぉ同僚か、久しぶりだな。あー、何日ぶりだ?」

同僚「五日だよ、それより色々と聞いたぞ。信じられない話も多いが……相当暴れたそうだな」

自衛「この辺は、暴れる理由に事欠かねぇからな。きな臭ぇ土地へようこそだ」

同僚「まったく……」

自衛「それより頼んだブツは持ってきたろうな」

同僚「ちゃんと持ってきたよ。私達も威力不足には悩まされたからな」

ヘリからは多数の銃器や弾薬が運び出されている。

同僚「捜索分隊の分はすでに用意してある。それを持っていってくれ」



自衛「っつーわけだ、俺等用の重機は用意してあるそうだ。それ持って制圧地に行ってろ」

自衛は隊員C等を集めて指示を出している。

隊員C「へーへー」

支援A「さーて人探しだ、探偵ごっこと行こうぜ!」

同僚「乱暴な扱いはするなよ、優秀だが古い銃だからな」

自衛「重々承知してるさ、それより持ち出し記録は頼むぞ」

同僚「分かってるよ」

同僚はそう言うと、物資の積み下ろし作業へと戻った

鍛冶妹「……ねぇねぇ、今の人ってさ」

自衛「あぁ?」

鍛冶妹「今の人も兵士なの?」

自衛「同僚の事か?あいつも普通科隊員だが」

鍛冶妹「へぇ……すっごい綺麗な人なのに。ちょっと怖そうだけど、キリっとしててまるで物語の王子様みたい」

自衛「どうだかな」

鍛冶妹「へ?」

自衛「時間だ。隊員C、支援A、重機は任せるぞ。俺は衛生のヤツを呼んで来る」



数時間後。捜索分隊は国境線を越えた。快速機動を維持するため、編成は指揮車と小型トラック、隊員10名のみ。そして車両には可能な限りの装備を詰め込んだ。

82車長『後方警戒車、定時報告寄越してくれ』

自衛「特に変わりはねぇが」

82車長『了解。引き続きよく警戒してくれ』

自衛「オーケー、切るぞ」

隊員C「警戒ねぇ、さっきから退屈な平野ばっかりだけどよ」

指揮車とジープは速い速度で平野のど真ん中を進んでいる。

自衛「黙って目ん玉見開いてろ、ここの内情は聞いたろ」

隊員C「分かった分かった」

支援A「なぁ、そんなきな臭ぇのかよここ?一体どんな国なんだぁ?」

隊員C「紅の国とかいう名称はもう聞いたろ。せいぜい小さな県か市くらいの規模の、こじんまりとした国だ」

衛生「五森の公国の半分くらいだったか?」

隊員C「ああ、だが大きく違ぇのが一つ。あっちとか他の国は王政だが、ここは商議会だかなんだか言う元老院制を執ってるんだとよ」

衛生「商議会だ?」

隊員C「元々は商人だか商会だかが、この辺を拠点したのが始まりなんだと。そこに次から次へと人が集まって、カビみてぇに拡大して国になったんだとさ!」

衛生「つまり、元々は他国の領土だったんだろ?よくそんな事ができたな」

隊員C「地図を見てみろよ。この辺は元々、三つの大国の領土が隣接してたらしい。大国は緩衝地帯が欲しくて、建国を許したんだろうよ。まぁ、国っつっても駄菓子のおまけみてぇなモンだが」

衛生「駄菓子のおまけねぇ……」

隊員C「でよ。そんな半端な国が、いろんなばっちいモンの温床になんのはお約束ってモンだ」

衛生「森に巣食ってた連中、襲って捕まえた人間をこの国で売ってたとか言ってただろ……?士長、こいつは……」

自衛「あぁ、臭うってレベルじゃねぇな。あんましタラタラしてる余裕はねぇぞ」

82車長『後方警戒車、町が見えたぞ。備えろ』

話している内に、車列の前方に風精の町が見えてきた。



一方そのころ、院生達は必用な物の補充のため、露草の町へ立ち寄っていた。そして町にある酒場の中に、麗氷の騎士の姿があった。

麗氷の騎士「それだけか……?」

店主「ああ、ここで教えられるのはこれで全部だな」

麗氷の騎士はカウンターで店主と対面している

麗氷の騎士「情報としては随分曖昧なんだな……」

店主「おいおい騎士様。これでも貴重な情報なんだぜ?第一、秘宝や宝具がどれも危険で厄介なところにあるのは、あんたらが一番承知してるだろ?」

麗氷の騎士「それは分かっているが……」

店主「もっと詳しく知りたければ、現地に行って見るんだな。あんたの外見で擦り寄って行けば、案内してくれる男ぐらい見つかるかもしれないぜ?」

麗氷の騎士「ッ……悪いが遠慮しておく!」

麗氷はそれだけ言うと、足早に酒場を後にした。



燐美の勇者「こっちは大体揃ったよ」

院生「こっちもです」

一方の院生達は、買出しを終え広場に集まっていた。

院生「ところで麗氷さんは?」

燐美の勇者「酒場に行ってる。宝具の情報がそこで聞けるらしくてね」

院生「宝具……燐美さん達が探してる武器とか力の事ですよね?」

燐美の勇者「そ。今ボク達が目指してる宝具とは、別の物の情報みたいなんだけど、一応ね」

院生「成程。あ、戻ってきましたよ」

広場の向こうから、こちらに歩いてくる麗氷の騎士が見える。

院生「麗氷さん、こっちです」

燐美の勇者「お帰り、買い物の方は終わったよ」

麗氷の騎士「そうか……」

燐美の勇者「どうしたの?怖い顔して?」

院生「麗氷さん、大丈夫ですか……?」

麗氷の騎士「いや、大丈夫だ……それより、すまないが情報に関しては期待はずれだった」

燐美の勇者「そっか……まぁよくある事だよ。少しの可能性でも当たっていかないとね」

麗氷の騎士「……そうだな」

燐美の勇者「その辺は前向きにね。それにしてもさ……」

麗氷の騎士「ああ……嫌な空気だ」

燐美の勇者達は軽く周囲を見渡す。町に入ってから、彼女達はずっと陰鬱な空気を感じて。いた

麗氷の騎士「どんな国も路地裏や地下に入れば、多少の嫌な空気は感じるものだが……」

燐美の勇者「この国の特性もあるだろうけど、ちょっとあからさまだよねぇ……」

院生「お店の人とかも、皆難しい顔してました……」

麗氷の騎士「町ひとつ移動しただけで、こうも空気が変わるとはな……」

燐美の勇者「急ごう。必用なものも揃えたし、長居は無用だよ」

燐美の勇者達は、町を出るべくその場を後にした。

追っ手A「……あいつら……」



商会長「間違いないんだな?」

追っ手A「ええ、確かに森で会った勇者共です」

壮年の男と中年の男が、ある小部屋で追っ手Aの話を聞いている。そこは先程の酒場のカウンターの裏だった。一般の客席から隠されたそこには、少しばかり上品な小部屋が存在していた。

商会長「ふむ……」

商会員A「良い機会ですな。理由は知らんが、魔王軍の魔人幹部は勇者を捕らえたがっていた。捕らえて引き渡せば、彼等に対しての発言権も上がるのでは?」

商会長「どうかな……だが、手駒は多いに越した事はないだろう」

追っ手A「では仲間を使って、今すぐとっ捕まえさせましょう」

商会長「馬鹿者、仮にも勇者だぞ。それで痛い目を見たのを忘れたか?」

追っ手A「ッ……」

追っ手Aは、包帯で覆われた自らの右目を抑える

商会長「騎士の娘の話はここで聞いていた、奴等の次の行き先は凪美の町のようだ」

商会員A「成程、むこうの町のほうが都合が良いですな」

商会長「わざわざ奴等から赴いてくれるのだ、向こうでうまくやるんだ。それまでは監視だけ付けろ」

追っ手A「分かりやした」

追っ手Aは小部屋から出て行った。

商会長「……それとだ。草風の村の件、お主はどう見る?」

商会員A「あの村の村長、やはり気付き始めておりますな。商議会と魔王軍との繋がりに……」

商会長「やはり、かつては商議会の一角を担った男だな。隠居して老いぼれたかと思ったが……やはり野放しにはできぬか」

商会員A「奴はまだ確証を得ているわけではないようですが……」

商会長「その前に口を封じねばならん。草風の村に雇った連中を差し向けろ。賊の襲撃に見せかけて、村を襲わせるんだ」

商会員A「村ごとですか?」

商会長「魔王軍側の準備もあと少しと聞いている、時間が稼げれば多少の荒事はかまわん。そもそもあの村には、商議会に反抗的な者も多いからな」

商会員A「それはそれは……恐ろしい」

商会長「顔が笑っているぞ」

商会員A「まぁ、かねてより草風村長の偽善的なやり方は、反感を抱くものも多かったですからなぁ」

商会長「ふん。とにかくこちらは任せるぞ、私は紅風の街に戻る。明日には魔王軍幹部が来る予定になっているからな」

商会員A「承知しました」



捜索分隊は、邦人が立ち寄ったらしい風精の町へと到着。町へ入る折にやはり一騒ぎあったが、なんとか町へと入る事ができた。そして手分けして町での情報収集を行った後、分隊は一度町の入り口で終結していた。

衛生「あの人狼の女性の話にあった宿屋を訪ねましたが、聞けたのは既に把握している事ばかりでした。具体的な行き先は不明のままです」

82車長「隊員C、そっちは」

隊員C「目新しい話はなんもだ。数時間かけて町中尋ね歩いたってのに、とんだ時間の無駄だったぜ…!」

82車長「ここでの動きはほとんどねーちゃんから聞いたからな。こんなもんか……」

自衛「肝心なのはこっから先だ。門番に聞いたが、こっから徒歩で北にある国に向うなら、高確率で露草の町とかいう所に立ち寄るだろうと」

隊員C「露草の町ねぇ?」

82車長「えーっとだ……」

82車長は小型トラックのボンネット上に広げた地図に目を落とす。

82車長「推測したルートと同じだな……こっから東北東にある町だ」

自衛「それとだ、途中に草風の村っつーのがある。余力がありゃ、そこに立ち寄ってるかもしんねぇ」

82車長「そこを訪ねてみるとするか……よぉし、行程再開だ、全員乗車しろ」



草風の村、草風村長宅。

草風村長「……」

草風村長は自分の部屋で、数枚の羊皮紙に目を落としている。その羊皮紙には、ここ最近の商議会の行動や、国内で起こる不可解な出来事等がまとめ記されていた。

草風A「村長、失礼します」

草風村長「ん?おお、草風Aか」

草風A「月詠湖の王国への出発の準備は整いました」

草風村長「そうか、ご苦労だったな」

草風A「しかし、本当なのでしょうか?商議会が魔王軍と……?」

草風村長「私も信じたくは無いよ……しかし、探れば探るほどに怪しく思えてならん。杞憂であればそれでいいが、事実ならば早くに手を打たねばならん」

草風A「月詠湖の王国が、応じてくれればいいのですが」

草風村長「わからんな……今掴んでいる内容だけでは、正直確実とは言えん……」

苦い口調で言いながら、村長は羊皮紙をまとめる。

草風村長「だが事実であれば、確証ができた時には手遅れだ。大陸も、私達のこの国もだ」

草風A「……」

部屋内に、しばしの沈黙が訪れる。

草風村長「しかし……あの娘達は大丈夫だろうか?」

草風A「ああ、勇者様達のことですか?」

草風村長「中央に近い町を通ると言っていたからな……勇者の名を持つ娘達を、私ごときが心配するのもおかしな話だが……」

草風A「きっと大丈夫ですよ。とても少女とは思えない強さを持つ娘達です」

草風村長「そうだな……おぬしも早く休め、明日早くには出発してもらわねばならん」

草風A「ええ、ではお先に……」

だがその時、部屋の扉が勢いよく開かれ、別の村人が飛び込んできた。

草風B「村長!た、大変ですッ!」



草風村長達は、村の北東にある櫓へと駆けつける。

草風A「あ、あれは……!?」

草風村長「まさか……!」

そこで彼等の目に映ったのは、村の北東から迫る騎兵の集団だった。

草風B「ならず者……にしては装備が良くないか……?」

村の見張り「だが紅の兵じゃないぞ……一体どこの――うぁっ!?」

草風B「ッ!」

村の見張りが言い終える前に、周辺広範囲に多数の矢が降り注いできた。

村の見張り「な!……ひ、火矢だ……ッ!」

草風B「クソッ!」

おまけに鏃には漏れなく火が付いていた。各所に突き刺さった火矢は、あちこちを少しづつ焦がし始める。

草風村長(なんということ……先手を打たれたとは……!私の対応は遅すぎだったか……!)

草風A「村長!」

草風村長「ッ!女子供を隠せ!手空きの者は武器を!」

草風B「はっ!」

草風村長「準備が出来次第要所を固めろ、急げ!」

村長の指示で村人達が一斉に駆け出す。

草風村長「草風A!お主はすぐに出発の準備をしろ!」

草風A「は!?しかし……ッ!」

草風村長「急げ!この事を国外に伝えるのだ!」



ほぼ同時刻 草風の村の西。風精の町での調査を終えた捜索分隊は、北東へと進んでいる。

82車長「日が暮れてきた……」

時刻は0500時を回り、太陽は後少しで地平線に身を隠そうとしていた。

82車長「警戒の人間は暗視装置を付けろ」

砲隊A「ん……?三曹、前方を」

砲隊Aが車列の進行方向を指し示す。その先に集落らしきものが見えた。

82車長「目標の集落か……各車、停車してくれ」

車列が停車、集落を確認するべく82車長は双眼鏡を手にする。

82車長「確認した、が……ありゃぁ……」

双眼鏡を覗いた82車長の表情は渋い物になる。

82車長「自衛、前方に集落だ。確認してくれ」

自衛『とうに見えてる』

小型トラック上では自衛が同様に、双眼鏡で集落を睨んでいる。

82車長「……どういう状況に見える」

自衛『お誕生会ってわけじゃねぇようだがなぁ』

集落からは多数の煙が上がり、あちこちが燃え盛っている。辺りが薄暗くなり始めるの中で、それは嫌と言うほど目立っていた。

衛生『またこのパターンかよ……!』

隊員C『どーしてこう移動する度に面倒にぶち当たるのかねぇ、ホント!』

82車長「どうする……素通りするにはちょっと厄介すぎるぞ……」



一方、南側にある丘の影から様子を伺う者達が居た。

傭兵A「……アレは一体なんだ?馬車には見えん」

男は遠眼鏡で車列を確認し、不可解な表情になる。

傭兵B「だが人が乗ってる。なんであろうと村に近づくやつは殺せとの命令だ」

傭兵A「分かっている、行くぞ!向こうにも合図を送れ」



隊員C「……ッ!おい、丘の影からなんか出てきたぞ!」

隊員Cが丘の影を指し示す。そこから三騎が騎兵が現れ、こちらへと向ってくる。

82車長「左からも三騎、警戒しろ!」

反対側からも含め、合計六騎の騎兵が車列に迫りつつあった。

支援A「お出迎えかな」

隊員C「そうは見えねぇがな……!」

瞬間、指揮車の側面に数発の火矢が直撃した。

砲隊A「うぉぁッ!?――火矢だ!野郎、攻撃してきやがった!」

82車長「82操縦手!出せ、走れ!」

82操縦手『了解!』

82車長「警戒車!回避行動を取れ!」

自衛「言われるまでもねぇ、衛生飛ばせ!」

指揮車が、次いで小型トラックが急速発進する。

傭兵B「動き出したぞ!」

傭兵A「奇怪な動きを……早急に仕留めるぞ!」

傭兵達は走り出した車列を追いかけ、馬上で弓を構える。

衛生「ッチ、追って来るぞ!」

自衛「蛇行しろ!奴等に照準を付けさせるな!」

衛生「ッ!クソッタレ!」

隊員C「残念だったな支援A!こんなクソな歓迎しかしれくれねぇんだと!」

支援A「つれない連中だぜぇ!」

自衛「おしゃべりは後にしろ!どっちか重機につけ!」

支援A「任せろ!」

支援Aが重機につき、傭兵達に銃口を向ける。小型トラックの後席にはMINIMI軽機に代わり、改良型九二式重機関銃が据え付けられていた。

支援A「見ろよ、右側の連中がこっちに近づいてくるぜぇ!」

隊員C「おわびに花束でも渡してくれるのかねぇ!」

三騎の騎兵は弓による攻撃を止め、抜剣しジープへと接近し始めた。

衛生「その気はねぇようだぜ!」

自衛「じゃあ用はねぇ、殺れ」

自衛が言うと同時に、支援Aが重機の押鉄を押した。

傭兵A「!?」

傭兵B「な、なんだ!?」

独特の発砲音と共に吐き出された7.7mm弾丸は、傭兵達へと降り注ぎ、彼等の周辺の空気を切り裂いた。

傭兵C「がぁッ!?」

傭兵A「なッ!?」

そして接近してきた三騎の内の、一番後ろの一騎に命中。馬、人ともに血を噴出し転倒、脱落した。

支援B「矢のお礼に、お届け返してやったぜぇ!」

自衛「命中が甘いぞ!こっちから奴等に寄せろ!」

衛生「了解!」

衛生がハンドルを切り、ジープは残る騎兵へと接近。

傭兵B「ッ!?このッ!」

接近してきたジープに対して、傭兵の一人が切りかかろうとモーションを起こす。

支援A「おおっと!」

だがその前に、それに気づいた支援Aが押し鉄を押す。

傭兵B「がはッ!?」

銃口が火を吹き、傭兵は被弾、馬上から転げ落ちた。

傭兵A「ッ!?おのれ!」

傭兵Aは馬を操り、ジープから距離を離そうとする。

支援A「待てよ!まだお届け者はあるぜぇッ!」

傭兵A「グァッ!?」

だがその前に7.7mm弾の餌食となり、鮮血を噴き出す。

衛生「一体なんだコイツら!?」

自衛「後だ!ハシント、右側はクリアだ!」

82車長『こっちを支援してくれ、こっちは残り二騎!』

自衛「了解。左のケツにいるヤツに接近しろ、ヤツを食え!」

衛生「了解!」

小型トラックは指揮車の左後ろに居る騎兵に接近する。そして重機が数発発砲。だが動き回る騎兵に対し命中弾は無かった。

支援A「アーォ!ちょこまか動きやがって!」

自衛「行進間射撃だぞ、近づくまで待て!よく照準しろ!」

その間に指揮車の50口径が発砲。

傭兵D「ゲッ!?」

前側を走っていた一騎が仕留められ、脱落する。

隊員C「シキツウが殺ったぜ」

自衛「最後の一匹になったぞ、仕留めろ!」

小型トラックが最後の騎兵と距離を詰め、騎兵は重機の照準にしっかりと収まる。

傭兵E「クソォッ!」

傭兵は目標を指揮車から小型トラックへと移した。速度を落とした馬が小型トラックと並走を始め、傭兵は馬上で剣を振り上げる。

支援A「オーイェー!」

傭兵「がぁッ!?」

しかしその姿は格好の的だった。真横からの銃撃をその体に受け、傭兵は地面へと崩れ落ちた。

砲隊A「……全部片付いたか?」

82車長「82操縦手、一度停車しろ!ヤツ等の仲間が居ないか探せ!」

指揮車は停車し、車上の隊員達は周辺を見渡す。

砲隊A「……周辺に敵影無し!」

82車長「了解、だが油断できん。よく見張れ!」

停車した指揮車の横に、小型トラックが乗りつける。

82車長「自衛、そっちは無事か?」

自衛「特に異常無しだ」

82車長「了解……なんだったんだコイツ等は?」

自衛「さぁな。だが、十中八九あの村に関わってるだろうがな。お前等降りるぞ、転がってるヤツを調べる」

隊員C「へーへー、面を拝むとしようか」

自衛等は傭兵を調べるために、ジープから降りようとする。

砲隊A「待った!」

だがその前に、砲隊Aが声を上げた。

隊員C「あ?」

砲隊A「集落の方見ろ!また来るぜ!」

82車長「何?」

指揮車上の砲隊Aが集落の方向を示し、82車長は双眼鏡でそれを確認する。

82車長「……騎兵が新たに三騎、接近中!」

支援A「アンコールをお望みみてぇだなッ!」

支援Aは九二重の銃口をそちらへ向ける。

82車長「いや……待て!なんか様子が変だ」

しかし82車長は射撃を静止した。

支援A「ああ、なんじゃい?」

自衛「どうした?」

82車長「あれは……先頭のヤツ、追われてるんじゃないか?」

自衛「何?」

自衛も双眼鏡で確認する。

自衛「あぁ、確かにそうっぽいな。格好も違ぇ」

先頭の一騎は、後ろの二騎から追撃を受けているようだった。

隊員C「どういうこっちゃ?」

82車長「分からん。だが、あれは助けたほうがいい!」

自衛「いいだろう。指揮車はここでヤツ等の注意を引き付けろ、俺等で脇から叩く。
    衛生、右っ側に回りこませろ」

衛生「了解」

小型トラックは接近する騎兵の脇に出るべく走りだす。



草風A「ッ……はッ!」

草風村長の命により村を飛び出した草風Aは、事態を隣国へ伝えるべく必死に馬を走らせていた。

傭兵F「待て、この!」

傭兵G「急げ、誰一人出すわけにはいかんぞ!」

しかし村を出る折に、反対側に回りこんでいた傭兵に見つかり、二騎の騎兵から追撃を受けていた。

草風A「ッ!くそ……!」

追撃者が放つ矢に襲われながらも、草風Aはひたすらに前を見て走り続ける。

草風A「……?」

その彼の目に、不可解な光景が飛び込んできた。進行方向に、濃い緑色の奇怪な物体が鎮座し、数名の人間がその周りに展開している。

草風A「ッ!回り込まれた……!?」

緑の物体についてはよく分からなかったが、傭兵の一部だと判断した草風Aは、表情を歪める。

傭兵F「?、おい、前を見ろ!」

傭兵G「あれは……なんだ?」

しかし背後から彼の耳に、動揺する傭兵達の会話が届く。

草風A「?、ヤツ等の仲間じゃない……?」

そう思った、その時だった。突如、何かが破裂するような音が響いた。

草風A「!?」

傭兵F「な、うわ!?」

傭兵G「何だ――ぎゃぁッ!?」

傭兵F「お、おいッ――ぐぁッ!?」

そして次の瞬間には、後ろの傭兵達が突然血を噴き出して倒れてゆく。まるで見えない矢にでも射られていくかのように。

草風A「な――!何が……!?」

突然の事態にさすがに馬を止める草風A。そして周囲を見渡し、南側に奇妙な荷車が居座っているのを発見する。

草風「あれが……やったのか……?」

考える間もなく、今度は前方から何かが唸るような音が聞こえる。見れば、前に居座っていた奇妙な物体が動き出し、こちらへと近寄って来ている。

草風A「ッ……!」

逃げるべきかと、馬を方向転換させようとする草風A。しかしそこで、奇怪な物体の上にいる人物が、こちらへ手を振ってきているのに気付いた。

草風A「……?」

奇怪な物体は草風Aへと接近し、目の前で停止する。

82車長「無事か?」

そしてその物体の上に乗る、奇怪な姿の男がそう聞いてきた。

草風A「あ、ああ――あんた達は……?」

82車長「あー、なんて言うべきか……とにかく、あんたに危害を加えたりはしない。心配しないでくれ」

そう言いながらその男は、奇怪な物体の上から降りてくる。

82車長「それよりあんた、あの集落の人か?」
     
草風A「ああ……そうだが……」

82車長「そりゃよかった、あそこで一体何が起こってんのか……おい、あんた大丈夫か?顔色が悪いぞ……?」

草風A「……大丈夫だ、それ……より……」

何かを言おうとした草風A。だが彼は言葉を紡ぎ終える前に、馬上から転落し地面へと倒れ込んだ。

82車長「な!?お、おい!」

唐突に倒れた草風Aに、82車長は慌てて駆け寄る。

82車長「!、矢が……!」

うつぶせに倒れた草風Aの背中には矢が刺さっており、衣服に血が滲み出していた。そこへ小型トラックが戻って来る。

隊員C「あぁ?何してんだ?」

自衛「どうした?」

82車長「負傷してる、背中に矢をくらってるんだ!衛生、見てやってくれ!」

衛生「ッ!了解!」

衛生小型トラックから飛び降り、草風Aへ駆け寄る。

衛生「……刺さりは浅い、誰か指揮車から医療器材を!」

武器C「もうここにあるぜ」

衛生「すまん、手を貸してくれ」

医療器材をその場に広げ、応急処置を開始する衛生。その背後から自衛等が様子を伺う。

支援A「アウチ、こいつぁひでぇ……」

82車長「おいあんた、しっかりしろ!」

草風A「ッ……頼む、助けを……村が、襲われた……!」

草風Aは苦しさの混じる声で、必死に言葉を絞り出し、話し始める。

82車長「あいつらにか?ヤツ等は一体なんだ?」

草風A「商議会の手先の……傭兵!ヤツ等が……魔王軍と繋がってる……!」

隊員C「あぁ?魔王軍だぁ……!?」

草風A「その事を知った俺達の……口を封じに……あの野郎共ッ!」

衛生「三曹、無理にしゃべらせると体力が」

82車長「ああ……」

草風A「伝えなければ……!村が……国が!」

82車長「分かった、分かったからもうしゃべるな!傷に触る」

応急処置が進む側で、隊員C達が話している

支援A「よぉ自衛、さっそく緊急事態なんじゃねぇかぁ?」

自衛「言われるまでもねぇ。通隊A、野営地に報告と緊急展開の要請をしてくれ」

通隊A「了解」

増援要請のために指揮車へと向う通隊A。

隊員C「昨日の今日で早速コレかよ……面倒事はスルーしてく予定だったのによ!」

82車長「さすがにアレをほっとく訳にはいかん。それに、もしあそにまだ邦人が滞在してたらどうする?」

隊員C「分ーったよ、やれやれ……」

話している間に草風Aへの処置が一段落する。

衛生「……よし。指揮車に移すぞ、手を貸してくれ」

武器C「分かった、そっちを持つ」

草風Aは衛生達によって指揮車へと運び込まれていった。

支援A「所でよぉ、アイツが言ってた磨耗君ってなぁ、一体誰のことだぁ?」

隊員C「はぁ?魔王軍だろがヴォケ!どんな耳してんだ……」

82車長「魔王とかいう存在と、そいつが頭張ってる軍隊の事だ。よくは知らねぇが、この世界がきな臭ぇのはソイツ等が原因なんだと。今現在、各地の軍隊や勇者一行が殴りに行こうとしてる」

砲隊B「さっきの男……その魔王軍とかと、この国の頭がつるんでるとか言ったよな?」

隊員C「ああ、みてぇだな。予想道理、いや予想以上にゲロっカスだった分けだこの国は」

支援A「で、さっきのヤツ等がその手先ってか?」

砲隊B「口封じと言っていたが、そのためにあそこまで……?」

炎の上がる村を見ながら、呟く砲隊B。

自衛「その辺は後だ。それよりあの集落を漁りに行くぞ、なんか分かるだろ」

自衛は炎と煙を上げ続ける集落を指し示す

隊員C「あぁ?増援の連中を待つんじゃねぇのかよ?」

自衛「あと少しで日が沈む。夜間にヘリを寄越してもらうのは適切じゃねぇ。必然的に車列が来る事になる。だとすると到着まで二時間はかかるからな、その間に集落が消し炭になっちまうぞ」

隊員C「ああそうかい……いっそのこと消し炭になるまで飯でも食いながら見てようぜ?そうすりゃ、面倒事も少しはスッキリするかもしれねぇ」

隊員Cの愚痴を無視して自衛は話を続ける。

自衛「俺とこの野郎で集落を見てくる。連絡とあの男の処置が終わったら、そっちも行動開始しろ」

82車長「あぁ、気をつけろよ」

自衛「よぉし、言いたい事は全部吐き出したか嫌味大王?斥候に行くからついて来い」

隊員C「ああ分かったよ、クソッタレ……!」



村の南西側、約200m地点。
村の南西側はなだらかな斜面になっている。その斜面の上から自衛等は、村の入り口の様子を伺っていた。

隊員C「見張りが……7名だな」

自衛「待て、哨戒が戻って来た」

村の門周辺には数名の軽装兵の姿と、複数の馬車止まっていた。
さらに哨戒とおぼしき二騎の騎兵も戻ってくる。

隊員C「はみ出しモン連中じゃねぇな、ある程度統制がとれてやがる。装備もアウトローのそれじゃねぇ……」
     

自衛「豪勢だな」

隊員C「だが、なんだってこんな辺鄙な村にそこまで手間暇かける必要があんだぁ?賄賂を渡すなり、脅すなりで済みそうなモンだが」

自衛「そいつは、当事者から直接聞き出すとしようぜ」

そこへ、インカムに指揮車からの通信が入る。

82車長『ジャンカー4ヘッド、こちらハシント。負傷者の収容と増援要請は完了した。今そっちはどうなってる?』

自衛「集落の入り口を監視中だ。入り口周辺に目視できるだけで9名。入り口まで遮蔽物は無ぇ、注意しろ」

82車長『了解。こっちは敵の目前まで接近して、混成分隊を展開する。あと数秒でそっちに到着だ、備えてくれ』

通信終了と入れ替わりに、後方からエンジン音が聞こえてくる。

隊員C「来たぜ」

そして自衛等の両脇を指揮車が、続いて小型トラックが勢いよく走り抜けた。

自衛「よぉし、行くぞ」

車両が駆け抜けるのと同時に、自衛等も起き上がり、村の入り口目掛けて走り出した。



入り口付近で、見張りの傭兵が話をしている。

傭兵H「なぁ。逃げたヤツを追い掛けた連中、やけに遅くねぇか?」

傭兵I「外周監視のヤツ等と一緒にサボってるんだろ?今回はそんなに気張る仕事でもねぇからな」

傭兵H「まぁな……ん?おい、何か見えるぞ」

傭兵の一人が、斜面の向こうから何かが現れたのに気付き、南西の方向を指差す。

傭兵I「あぁ……なんだありゃ?」

傭兵H「馬車……違うな、何だ?」

傭兵I「おい、速すぎるぞ……それにこっちに向かってる!」

傭兵H「なんだぁッ!?」

姿を現した奇妙な物体は、わずか数秒で傭兵達の目前、数十メートルの所まで迫ってきた。

傭兵H「ぎひッ?」

傭兵I「……は?」

何かが立て続けに爆ぜるような音がした。そして、傭兵の一人の頭部が鮮血と共に弾け飛んだ。

傭兵I「…あ…わあああッ!?」

傭兵J「なんだ!一体何が起こった!?」

突然現れた物体と、仲間に起こった惨劇に、見張りの傭兵達は混乱に陥った。

82車長「砲科分隊、降車だ!展開しろ!」

指揮車は一度停車。82車長は50口径で牽制を加えつつ、車内に向けて叫ぶ。

砲隊A「了解。降りるぞ、行け」

武器C「行くぜ行くぜぇ!」

指揮車の後方ハッチが開かれ、指揮車の後部で待機していた砲隊A等四名が降車。指揮車の両脇へと展開する。

砲隊A「入り口付近の敵を排除する!射撃開始!」

通隊A「了解!」

展開した混成分隊が傭兵達に向けて攻撃を開始。

傭兵I「ぎゃッ!?」

傭兵K「うわッ!?な、なんだこれは……!あいつ等はなんだ!?」

傭兵J「ッ!何者だろうと敵には違いない!かかれぇッ!」

傭兵集団A「ウォォォォッ!」
     「野郎ォッ!」

周辺を見張っていた傭兵達が、武器を手に指揮車へと襲い掛かって来る。

傭兵集団A「ッ――うがぁ!?」
     「痛ェッ!?」
     
傭兵J「な、何だ!?」

だが、襲い掛かろうとした傭兵達の斜め横から、何かが殴りつけるように降り注いだ。

支援A「うひゃひゃひゃひゃッ!」

奇妙な叫び声と共に、発砲音が響く。
指揮車から見て四時の方向、40メートル程離れた場所にいる小型トラックからの、重機による支援射撃だ。

隊員C「だぁ、糞ッ!」

自衛と隊員Cは小型トラックへと追いつき、車体の影へとカバーする。

自衛「どうなってる?」

支援A「ヤツ等釘付けだぜぇッ!」

衛生「指揮車と砲科分隊が交戦を開始!敵は向こうに集中してます!」

自衛「それでいい、ヤツ等を釘付けにし続けろ!砲科の連中を支援するんだぁ!」

衛生「待った、敵の騎兵が動きます!」

入り口東側に待機していた騎兵が、指揮車に向けて動き出すのが見える。

自衛「指揮車に近づけさせるな、仕留めろ!」

衛生「了解!」

自衛等は各々の火器をもって攻撃を開始。指揮車へ迫ろうとする騎兵へ、小銃による銃撃が集中する。

傭騎兵A「ぐぅっ!?」

傭騎兵B「ッ!くそ、こんな――ぐぁッ!?」

隊員C「おとなしくしてろッ!」

走り出したばかりで低速の騎兵二騎は、本来の機動力を生かせぬまま、集中砲火の餌食ちなった。

隊員C「おい見ろ、砲科のヤツ等が前進するぜ!」

指揮車と随伴する特科分隊が、ゆっくりと前進を再開するのが見える。

自衛「俺等も前進だ。衛生、トラックを入り口の真横、ヤツ等を殴れる位置まで持ってけ!」

隊員C「よぉ、支援A!撃つ時はよーく冷やしてから撃てよ、二重の意味でな」

支援A「はぁ?なんのこっちゃ」

隊員C「銃身、それとお前の味付き卵張りに、アドレナリンの染み渡った脳味噌の事をいってんだよ」

隊員Cは自らの頭を指差しながら言った。

支援A「うぇー、ご心配ありがとよぉ……!」

自衛「トンチは後にしろ!衛生、行け!」

衛生「了解!」

衛生がアクセルを踏み込み、小型トラックは敵の横へ回りこむべく東側へと走る。

自衛「隊員C、俺等は前進だ。行くぞ」

自衛等は前進を開始した。

傭兵K「ウガッ!?」

傭兵L「げッ!?」

最初に指揮車への突撃を試みて来た傭兵数名は、重機による足止めの後、砲科各員の銃撃により撃破されていった。

砲隊A「まだ他にも残ってるぞ、隠れてるヤツを片付けるんだ!」

武器C「待った!入り口から数名出てくる!」

集落の入り口から、増援の傭兵が駆け出してくるのが見える。

砲隊A「チッ!展開させるな、入り口付近に銃撃を集中しろ!」

砲科分隊は、入り口付近への攻撃を開始しようとする。

弓傭兵A「クソッ、好き勝手しやがって――くらえ!」

武器C「ッ――おぁッ!?」

だが次の瞬間、放たれた一本の矢が武器Cの鉄帽へ直撃した。

特連A「武器C!」

砲隊B「弓兵だ!櫓の上に弓兵二名!」

砲隊Bが発した次の瞬間、周囲に矢が降り注ぎだした。

通隊A「危なッ!?ざけんなッ!」

砲隊A「誰か、櫓の弓兵を仕留められないか!?」

82車長『砲隊A!こっちからヤツ等を弾き飛ばす、待ってろ!』

指揮車が展開する砲科分隊をかき分けるように、ゆっくりと前に出る。そして50口径の銃口が櫓に向けて火を吹き出した。

弓傭兵A「がッ!?」

弓傭兵B「げへッ!?」

12.7mm弾が櫓へと注ぎ込まれ、弓兵達は櫓ごと粉微塵になった。

通隊A「おい武器C!大丈夫か?」

武器C「怪我は無いです……ビビらせやがって糞めが!」

砲隊A「まだ敵は居るぞ!銃撃の手を止めるな!」

弓兵に注意が逸れた数秒の間に、地上の傭兵達が散会しつつ迫って来ている。

武器C「糞!地上の連中がばらけちまった!」

砲隊A「各個撃破しろ!」

迫り来る傭兵達を迎え撃つ指揮車と砲科分隊。

傭兵M「いがッ!?」

通隊A「ッ!再装填する、援護してくれ!」

武器C「団子みたいに固まってりゃいいものを!」

敵も一方的にやられるつもりは毛頭無いようで、矢が周辺に降り注ぎ、時折近くを掠める。

武器C「ッ!地上にもボウガン持ちだ!複数!」

砲隊B「おい、面倒臭いぞこりゃ!」

砲隊A「ジャンカー4!敵が横隊でバラけて迫ってくる!こちらの位置関係では優位な攻撃ができない!横から支援射撃を!」

自衛『待ってろ!トラックがヤツ等を殴れる位置に向ってる!俺等もすぐ射撃位置に着く!』

小型トラックが傭兵達を狙える位置へと滑り込んで来た。

傭兵N「ッ!」

衛生「位置に着いたぞ!支援A!」

支援A「任せとけってェ!」

傭兵N「ぐッ!?」

傭兵集団C「がぁ!?」「う、うわ!?」

重機の押鉄が押され、指揮車へ迫る傭兵達の真横から、7.7mm弾が降り注いだ。

隊員C「べっ!」

自衛「着いたぞ、殺れ!ヤツ等に集中砲火だ!」

自衛等は射撃位置へと到着し、7.7mm弾を浴びる傭兵達へ追い打ちのように射撃を始める。

砲隊A「足が止まったぞ!自由に発砲しろ!」

さらに釘付けになった傭兵達に、砲科分隊も攻撃を再開。

傭兵集団D「うぎゃッ!?」「糞、なんだって――うがぁ!?」

傭兵達は三方向からの集中砲火を浴び、次々と倒れていった。

砲隊A「撃ち方止め、撃ち方止めーッ!」

銃撃が止み、周辺に一瞬静寂が訪れる。

砲隊A「……報告しろ」

砲隊B「向ってくる敵影、ありません」

武器C「同じく、敵影無し!」

向ってくる傭兵の姿は無く、入口から指揮車までの間には、複数の死体が列を成すように転がった。

82車長「砲隊A、入口周辺を確保するぞ」

砲隊A「了解。砲科分隊前進だ」

指揮車と砲科分隊は集落の入り口まで前進する。

82車長「先行する、支援してくれ」

指揮車が先行し、入口から集落の敷地内へと乗り入れる。砲科分隊がそれに続いて入口をくぐり、指揮車の周りへと展開してゆく。

砲隊B「敵影無し」

武器C「確保!」

砲隊A「見張りの連中は片付いたか……」

82車長「警戒は続行しろ。またいつ沸いて出てくるか分からねぇぞ」

そこへ、後ろから自衛等と小型トラックが追いつき、合流する。

自衛「よぉ、どうだ?」

82車長「この辺は片付いた。ただ、こいつらで全部……なんてこたぁ無ぇよな」

自衛「あぁ。きっと村の中でコイツ等の本隊が、何かやらかしてるだろうよ」

一方、転がる傭兵達の死体を眺め、衛生等が怪訝な顔を浮かべている。

衛生「見張りの人数としちゃ、大げさ過ぎだ……この村に何があるんだ?」

隊員C「限りなく臭ぇぞー、こりゃ」

82車長「それも気になるが、住人の安否も心配だ……村の中を調べるぞ。指揮車が先行する。砲科分隊、指揮車の後方に展開して街路を警戒しろ」

砲隊A「了解」

82車長「普通科はトラックから重機の支援を」

自衛「任せろ」


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